レッスン

そこにはピアノがあり、少し離れたところに椅子が置いてある。ピアノには女が、離れた椅子には男が座っている。


女 じゃあ、よろしくお願いします

男 ああ、よろしく


 女はベートーベンの『月光』を弾き始める。


男 ちょっとストップ


 女、手を止める。男、女に歩み寄る。


男 まあ悪くはないんだけど、もう少し情熱的に弾いてみて

女 はい


 男、椅子に戻る。座るとき、椅子を少しピアノに近づける。
 女、再開する。さっきよりも情熱的に弾いている。


男 ストップ


 女、手を止める。男、女へと歩み寄る。


男 情熱的にとは言ったけど、ちょっと激しすぎるかな。抑えて弾いてみよう

女 はい


 男、椅子に戻る。座るとき、さらに椅子を近づけている。女、再開する。


男 ヘイ!

女 は、はい


 男、女に近づく。いささか苛立っている。


男 違う。ここはピアニッシモだ。君のはピアニッシモと言うにはいささかピアノだ。もっとニッシモさを出して

女 わかりました

男 うん、頑張れ


 男、女の肩を叩く。椅子に戻る。やはり椅子を近づけていて、最初よりもかなり近い。女、弾き始める。


男 ストップ


 女、手を止める。少々いらいらした感じに見える。


男 なんか弾きづらそうだね。うーん、上着が重いのかな。ちょっと脱ごうか

女 …はい


 女、言われたように上着を脱ぐ。男、上着を受け取る。受け取ったとき、さりげなく上着の匂いを嗅ぐ。椅子を近づけ、座る。もうピアノのすぐ傍まできてしまった。女、弾き始める。


男 ちょっと待って


 男、ズボンを脱ぎ始める。


男 ああ、ごめんごめん。ちょっとズボンが重く感じたから

女 (舌打ち)


 女、いらいらしながらピアノを弾く。ややあって男が手を叩く。


男 違う違う。もっとゆっくりと

女 ねえ


 いきなり口調が変わる女。びっくりする男。


男 な、なんでしょう

女 あんたさー、長いんだよね

男 長いって

女 ここはどこ?

男 え?

女 どこなのよ

男 どこって、ピアノ教室…

女 違うでしょ!イメクラでしょ

男 は、はい

女 さっさと脱いで

男 …すみません


 男、パンツを脱ぐ。暗転。