この道の桜を見るのは、今年で19回目だった。


初めて見たときの記憶は曖昧だ。おそらく、小学生にもなっていない時分だったろう。
その時はこの街自体がニュータウンとして開発されたばかりだったから、桜の樹自体も植えられて間もないものだった。桜並木と呼ぶには、いささかみすぼらしいものであったろう。

私がこの桜を桜として認識し始めたのは、中学に入ってからだ。
家から中学までは歩いて10分ほどの道のりである。その間はずっと桜並木が続いているのである。
聞いてみればなかなかにロマンチックな話だが、物心つく前からそんな環境があった者からすれば、たいして有り難みを感じないものである。加えて私は、花を愛でるという感性に乏しかったから、この道を「ただの道」としてしか見ていなかった。


それでも、私の中に、一つ強く残っている出来事がある。


あれは中学二年の春だった。私は学習塾に通っており、その帰り道の話である。その時は塾のクラスと帰り道が一緒だった友人Sと共に帰るのが常であった。Sは全国でもトップクラスの成績を収める程の頭脳を持っていたが、わりと幼いというか、人なつっこい人間であった(私は彼にいささかの尊敬と劣等感を抱いていたように思う。が、それはまた別の話)。彼と、とりとめもない話をしながら帰るのがいつもの帰り道である。
が、その日、私はいつもの道の桜が満開であったことをふと思い出し、

「なあ、夜桜みにいこーぜ」

と言ったのである。Sは同意し、少々遠回りながらも帰り道を変えることに同意した。

街灯に照らされた桜の花は淡い紫色に光り、そこには感受性の乏しい私さえ感動させる光景があった。Sに感想を聞いたかどうかは定かでないが、彼も私と似たような感情を抱いたのではないかなどと、今も勝手に思っている。


あれから10回ほどの桜を見た。


私はいつまでこの桜を見るのだろう。


10年後、20年後……
この道は、私を昔と同じように迎えるのだろうか。