昔球場

タイヘン好きなドラゴンズ。
春、ペナントレースが始まれば、毎日yahooのスポーツニュースをチェックする生活が始まる。
ドラキチ(通称、ドラゴンズキチガイ)たちは、その勝敗に一喜一憂している。
実生活で一喜一憂できるのはそれぐらいなのでどうか大目に見てほしい。
当然、各選手の個人成績も綿密にチェックする。
打率とか防御率とか全部ね。
森野の打率が低くても、彼の打点が多いことに頼もしさと誇らしさを感じたことはあるかい?
無いのなら無いでイイさ。
きっと野球に興味の無い人間には、たぶん何にも面白くない数字かもしれない。
でも、野球好きにはたまらんわけですよ、あの数字こそが。
野球ファンは、あの数字を眺めてるだけで何杯でもご飯が食えるというカラクリになっている。


岐阜に住んでいたころは、私鉄を乗り継ぎナゴヤ球場へ行ったものだった。
今でこそ「ナゴヤドームが本拠地だ」なんてエラソーにしているが、
昔は、小さな小さなナゴヤ球場こそがドラゴンズの本拠地だった。
ドームへも何回か行ったが、やっぱり球場には敵わない。球場の圧勝だった。
雨の日でも試合ができることは、別に尊いことでもなんでもない。
人間の都合でしかない。
中止になればいいのだ。雨が降ったんだから。もしくは雨の中でやればいい。
汗を垂らしながら右手に握りしめた外野席のチケット。
ガヤガヤと騒がしいバックスクリーンの真裏。
球場の天然芝生が目に飛び込んできた瞬間のあの鮮やかさ。
半分ヤクザだと言われている応援団の甲高く調子外れのトランペット。
売り子さんのブラチラ
紙パックで売っていたコカコーラ。
売り子さんのパンチラ。
週刊少年ジャンプをハサミで切り刻んで作った紙吹雪。
レフトスタンドの階段を降りた所の美味い「どて飯」を出すお店。
(どて飯の詳しい説明はしないが、味噌とホルモンと白ご飯が三位一体となった神様の食べ物であると思っておいて間違いはない)
その全てを、ナゴヤドームは失ってしまった。
ようワケのわからん「味噌カツクレープ」を出すクレープ屋がで
きた。FUCKだった。僕が「FUCK!」と叫んだのはこの時が最初で最後だ。


僕らの生活はどんどん便利になっている。
苦痛を取り除く方向へと迷わず突き進んでいる。
迷っていない時こそ怖いことはない。
ある苦痛や不便さを奪い去ったことで、ある極上の楽しみまでも奪い去ってしまったことに気づく。
しかし、気づいた時にはもう遅かったりする。
「今」は「昔」に勝った気でいるかもしれない。
けど「今」がどう足掻いても勝てない「昔」もある。
五万とあるだろう。<文・フルタジュン>



★次回のキーワードは「休み時間」です。