世界中の美女とSEXするよりも、あの娘と同じバイトのシフトで働きたい。
誰かさんの言葉である。
それを発したのは、偉い人でも何でもない。
きっとフツーな男の言葉に過ぎない。
しかし、悔しいかな、この端的なフレーズは見事に男の真理を表している。
たかがバイトのシフト、されどバイトのシフトである。
「シフト表を眺めてガッツポーズをしたことのない方」と「俺は世界中の美女とSEXする人生の方がいいや」と言う方は、今回はこの時点で立ち去るべきだ。
ここから先、何も有益なことが書かれていないことを保証する。
さあ、ここからがモノガタリの入口。
入られる方は、どうぞ中へ。
正直、僕はそれを「遊び」と呼んでもいいのかどうか分からない。
学生時代に端を発した「この集い」は遊びと言えば遊びである。
しかし、である。
健全な40代の男たちが、休日の予定を合わせて、こうして定食屋に集う様は異様という他ない。
この集いの趣旨は、至ってシンプルだ。
「飲食店で働くキレイな店員さんを見つけた時の喜び。
そして、その共有」である。
パン屋の娘、マクドナルドの女の子、居酒屋のホール、レストランのウエイター。
まるで流星が自分に直撃したような衝撃を味わったことはないだろうか。
気づいてしまったが最後、とめどもない幸福感に包まれる。
その娘が近くを通過するのを待ち、呼び止めて注文。
何回も水を飲み干しては「水、ください」を連発。
愚行の数々を挙げればキリがないであろう。
僕は学生時代の悪友たちと一つの約束をした。
「自分のモノは皆のモノ、皆のモノは自分のモノ」
日本にいて、立派な社会主義思想を持つに至ったのである。
美しい店員さんは共有財産として、お互いに教え合うというルールが設けられた。
抜け駆けは決して許されなかった。
そして、困ったことに皆が無駄に真面目だった。
ルールを破る人間が一人もいなかったのだ。
その証拠に40代になった今もこうして集まっては美しい店員さんを眺めている。
あの頃と違いキャバクラや風俗に行くお金もある。
しかし、残念ながらそれではないのだ。
それではない。
決定的に違うのだ。
限りなくゼロかもしれないが、ずっとゼロだったのかもしれないが
僕らはまだ可能性を見ているんだと思う。
キレイなフィルターを通して見てる。
彼女と僕らを繋ぐ1ミクロンの可能性の糸を。
誰もが摂取カロリーを気にして、揃いも揃ってサバの味噌煮定食をたいらげた。
F沢がぽつりと言った。
「・・・可愛すぎる」
皆が遠い目で静かに頷いた。誰も異論はない。
「可愛すぎる」これは僕らの中で最上級の讃辞の言葉であった。
結った揺れるブラウンの髪、吸い込まれそうな笑顔、
そして、その輝き。
オーダーを取る時の優しさ、こんな僕らへの気遣い、
そして、その輝き。
前かがみになった時の胸の膨らみ、透きとおるような肌、
そして、その輝き。
K藤がぽつりと続いた。
「世界中の美女とSEXするよりも、
あの娘と同じバイトのシフトで働きたい」
世界は頷いた。<文・フルタジュン>
★来週のキーワードは「お墓」です。