帰郷
田舎に、十数年ぶりに帰ることにした。
今まで帰らなかったのは、戻ったら最後、もう東京には戻れなくなると思ったから。
…というわけではなく、単純にお金が無かったのと、めんどくさかったからだ。
友達の訃報を聞かなければ、この先も戻ってくることは無かったかもしれない。
新幹線やらローカル線やらを乗り継いで着いたのは、「田舎」以外に形容のしようがない風景の中だった。
思い出がよみがえる。
こんな何もないところで、私は一生を終えてしまうのか。
嫌だ。もっと、華やいだ場所にいたい。
そんなことを思った時期があったなあ。
実際に東京に出てみれば、田舎者の私にはとても辛い場所だった。
華やぎ以上に世間の辛さがあふれ出るような所だ。
そこで十年以上過ごした私は、端から見ればキャリアウーマンにでも見えるのだろうが、
なんのことはない。ただ意地で東京という得体の知れないものにしがみついていただけ。
それだけだ。
「よっちん」
私を呼ぶ声がした。旧友の明美だ。
「やー、久しぶり」
私は手をひらひらと振った。明美も同様に手を振り返してきた。
私たち二人は明美の車で、お墓へと向かった。
ひろくんのお墓だ。
私、明美、ひろくんは幼なじみだった。
ひろくんは私よりも1つ上で、三人の中でリーダーみたいな存在だった。
私と明美はよく泣かされたけど、彼はどうにも憎めない奴だった。
駅から2時間ほどで、墓地が見えてきた。
昔はここで肝試しなんかもやったっけ。
そんな思い出が蘇ってくる。
5時頃だが、まだあたりは明るい。
蝉や蛙の鳴き声が響く中、私たちは歩いた。
私も、いつかはここに埋められるのかな。
こんなところで死にたくない、なんて考えて家を飛び出したけれど、
最期はここに還るのかもしれないな。
そういうのも悪くないのかもしれない。
「これだよ」
明美が示した場所に、ひろくんのお墓があった。
それを見て、私はただ一粒だけ涙を零した。
それがどんな意味の涙なのか、その時の私にはわからなかった。