もしくはデビルガール


帰省の楽しみと言えばいくつかあるが、その一つに「プロ野球中継」があることを忘れてはならない。視聴率の低迷から、テレビがプロ野球中継に見切りを付けてから数年が経つ。東京に暮していると、BS放送やCS放送でもない限り、ジャイアンツ戦ぐらいしか放送されない。こんな拷問はない。目の前で片思い中の女性が彼氏らしき男とディープキスしているのをまざまざと見せつけられるようなものだ。
しかし、岐阜県は違う。愛知・三重・岐阜。この東海3県はドラゴンズのお膝元。
CBC(こっちのTBS)がガッツリ放送したりするからたまらない。
前置きが長くなってしまった。
中日ドラゴンズの低迷期、ドベゴンズなんて皮肉られたこともあった。
イカイカン。これもまた別の話である。
このままズルズルとドラゴンズのことを書いていたい気もするが、残念ながら今回の主役はドラゴンズではない。


あの夏、帰省中の僕は「中日-阪神戦」をテレビ観戦していた。
川上が3者連続3振を取り、おたけびとも取れるガッツポーズを見せた。
解説者は「ナイスピッチング! 阪神打線、全く手が出ず! 強いぞドラゴンズ!」
と完全に中日寄りの傲慢コメントを残し、場内を映していたテレビカメラがパンした。
パンして客席を捉えた。

そこに君がいた。
時間にして5秒もなかったと思う。
でも、それは間違いなく君だった。
君の顔を忘れるわけがない。
大きな君は大きなビール樽を背負い、ビールガールに扮していた。
中学時代、「ラ王」というあだ名をほしいままにしていたSさんだった。
(ラ王が分からない方は、漫画『北斗の拳』を参照してください)
僕は飲んでいたビールを鼻から吹き出しそうになった。


「あ、あいつが、ビールガールを・・・」


わずかな映像でも十分読み取れるほどに、ふてくされた顔はあの頃のままだった。
当時年齢詐称していなければ、僕と同じ28歳。
28歳のビールガール。
どうなんだろう。中堅どころか。
いや、きっと周りは学生ばかりだろう。
彼女の売るビールは全く売れている気配がなかった。
蛍光ピンク色のユニフォームが痛々しく、南米に生息する珍しい蝶々を連想させた。
もしくはデビルガール。


カメラが再びパンして、ナゴヤドームの全景を捉えた。
そして、CMに切り替わった。


僕は嬉しかった。
中学時代の友人たちと連絡を取ることも激減している。
誰がどこで何をしているのか、年々分からなくなっている。
女子なら尚更だ。
誰の連絡先も知らない。
しかし、ラ王は変わっていなかった。
全く変わっていない。
変わっていないどころか、ビールガールなどという完全にアウェーの地でその魅力をますます発揮するばかりだった。


マジで負けてられねぇ。<文・フルタジュン>


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