序章 

会議室の中に、2人の男がいる。
面接の風景である。
面接官は3〜40代で、気弱そうな見た目をしている。
一方、面接を受けに来た男は、目をギラギラと輝かせている。


「ではまず、あなたのお名前をお聞かせ下さい」
「はい!山田太郎と申します!」
「では山田さん」
「太郎でお願いします!」
「は?」
「小さい頃から太郎と呼ばれてきましたので!」
「……では太郎さん」
「さん付けもやめて下さい!」
「……」
「呼ばれ慣れておりませんので!」


沈黙。


「えー…太郎」
「何でしょうか!」
「まず、あなたが弊社の試験を受けるに至ったきっかけを説明して下さい」
「はい!」


太郎、席を立ち、背広を豪快に脱ぐ。


「直感的に、この場に来ないといけないと思ったからです!」


太郎、背広を着直して、着席する。


「…太郎」
「なんでしょうか!」
「直感的とは、どういうことでしょうか」
「直感は直感です!説明しようがありません!」
「そうですか…」
「はい!」
「えー、今、何故背広を脱いで答え、また背広を着直したのですか?」
「何となくです!」
「説明を」
「なんとなくはなんとなくなので説明のしようがありません!」


沈黙。


「で、では、あなたの、他の誰にも負けない点があったら教えて下さい」
「そんなものはありません!」
「ちょ」
「人間、誰もが人より優れている何かを持っているという話がありますが、私はそれを信じておりません!」
「そうかい…」
「強いて言うなれば、直感に自信があります!」


沈黙。


「…では、これで面接を終了しますが、何か言っておきたいことなどはありますか?」
「はい!」


太郎、席を立つ。


「面接官さま、あなたは早く家に帰った方が良いです!」
「な…」
「直感的に、そんな気がしました!」


一瞬の沈黙あって。


「お疲れ様でした。君は不合格です。早く出て行きなさい」
「はい!お疲れ様でした!」


ここで面接官のモノローグ。
「あのとき、私は彼の忠告を素直に聞いておくべきだったのかもしれない…」


暗転。