散文の夜


黒々とした水面。緩やかに波打つそこからは、時折魚が跳ねている。ここから2,3キロも下れば、海へと流れている。


私と友人のIは、どぶ川の縁に腰掛けて喋っている。


とりとめのない会話といえばそうなのだが、当時の私とIにとっては、なかなかに深刻な話なのだ。2人の会話の内容は秘密だ。というか、あまり覚えていない。思いつくままに下らないことを話していたのだろう。


私たち二人は弓道部の同輩である。その時我々は高校三年生であり、県大会を控えていた。負ければ、そこで部活は終わり。3年間培ってきた全てをぶつける場所が、その大会なのである。


結論から言えば、県大会は負けた。Iは団体で、私は個人で出場したのだが、特に明記する必要もないほどの結果しか残せなかった。



そして現在。あれからもう7年ほど経ったのか。そう思うと、ずいぶん長いこと過ごしてきたのだな、と思う。日々を怠惰に過ごして、人に迷惑をかけ続け、恥を晒して生きている。


あのとき話した様々な何かは、あの黒々とした川の中に溶けていったのだろうか。希望やら不安やら、そして、その他言葉で言い表せない感情の込められた言葉は、どこへと消えたのだろう。


夜の海を見つめていると、引き込まれてしまうという。
まあ、我々が見ていたのは川だったけれど。
あのときの私たちは、おそらくあの水の中へと消えてしまって、
いま、ここにいるのは、別の人間なのかもしれない。
まあ、例えそうだとしても、私が何をどうこうできるわけでもないのだし、
別の人間になったからと言って、無理にあのときの私に戻る必要もない。


それでも、おそらく失ってしまった何かのことを思うと、
少しだけ、いや、ずいぶんとやるせない気持ちになる。
それが嫌だから、過去を振り返らぬための生き方を探しているわけなのだが、
どうにもうまくいかないことの方が多い。
いやはや、何とも人生というのはままならないもんだ。




IもIで、色々と人生を迷走しているようだ。
それが何だか、少し可笑しい。