ディズニーランドが嫌いな理由

アンチ。


それが、学生時代から僕が「ディズニーランド」に一貫して取り続けている姿勢だ。
あのネズミ王国にどうして背を向けるようになったのか。
なにか明確な理由でもあったのか。
自分史を紐解いてみる。


片思い中の女性がミッキーマウスのTシャツを着た男と歩いているのを見たわけでもなければ、母がディズニーランドの社長のバカ息子に刺されたわけでもない。
因縁めいたものは何にも思い出せないような気がする。
いや、待てよ。
もう少し遡ってみよう。
初めてディズニーランドへ行った記憶だ。
小学生の時だ。
確か、その日は雨が降っていた。
雨合羽を着てビックサンダーマウンテンに乗ったのを憶えている。
楽しかった。


楽しかったんかい!


いや、何かあるはずだ。トラウマになっていることが。
そうだ。
そういえば、帰り際にステッキを買ってもらったのだ。
宙に浮かぶステッキ。
ステッキの先端には魔法使いの衣装を身にまとったミッキーがいた。
フルタ少年の目の前で異国情緒あふれるパフォーマーが、華麗に実演して見せた。


右に、左に、上に、下に。
ステッキがその男の意のままに宙を舞った。


あんぐり。


小学生だった僕はつぶやいた。


「魔法や」


今、目の前で宙に浮いているステッキは、どう考えても「魔法」という言葉でしか説明がつかない。
その時、僕は三角形と台形を求める数式を習得していた。
無学ではない。
その2つの武器をどのように組み合わせても、今、目の前で起きている現象は「魔法」という2文字以外には考えられなかった。


これは大変なことになった。
魔法がなんと1000円で売っているのだから。
母に土下座をする勢いで泣き散らしステッキを買ってもらった。
この時の高揚感を覚えている。
このステッキはまだ他にもパワーを秘めていて先端から火の玉が吹き出たりする。
勝手に真剣にそう思っていた。
僕はとんでもないものを手に入れたぞ。
ドキドキして家に持ち帰り、開けてみた。


信じたくはなかった。


信じたくはなかった。


黒い細い糸があった。


黒い細い糸があった。



糸だった。


糸の操作だった。


魔法ではなかった。


それから僕の生活は荒れた。
荒れてポテトチップスを食べた。
そして、現在のこんな体型に至る。
ディズニーランドのせいだ。


だから僕は嫌いになったのかもしれない。



<文・フルタジュン>


★来週のキーワードは「さびしい」です。