ノリ

A「じゃあ、取り調べを始めます」
B「……はい」
A「名前は?」
B「和田と申します」
A「和田さん、と。えー、あなたは痴漢をはたらいたという事実を認めますか」
B「……はい」
A「わりと前代未聞です。あなたのやった行為は」
B「でしょうね」
A「車内ではなく、階段で、なんて」
B「なんか、疲れてて、なんとなくやってしまったんです」
A「なんとなく、ですか」
B「はい。すみません」
A「それでは、詳しく説明してもらいます」
B「はあ」
A「場所は当駅の階段、ですね」
B「はい」
A「で、目の前の階段を登っている女性のお尻を」
B「触りました」
A「被害者や目撃者の話では、触ったと言うよりも」
B「……」
A「掴んだ、と」
B「はい」
A「どのように?」
B「こう、両手で下の方から、がつっと」
A「どちらかと言えば、鷲掴むような感じですか」
B「そうです。鷲掴み。その表現がぴったり来る」
A「そうですか」
B「強いて言うなら」
A「なんでしょう」
B「手を、こんな形にして」


A「こう?」
B「掛け声を出すような感じでした」
A「掛け声」
B「もしかしたら口に出していたかもしれません」
A「掛け声とは、どのような」
B「こう、両手でお尻を掴むと同時に」
A「同時に?」
B「『こうじゃ!』」
A「……こうじゃ?」
B「はい」
A「何が、『こう』なんですか」
B「なんでしょうね、心意気とかですかね」
A「心意気……?」
B「やってやるぞ!みたいな」
A「やるって、痴漢をですか」
B「ああ、いやいや、そういうわけではないんですが」
A「では、どういった?」
B「うーん……実際やってみた方がわかりやすいです」
A「やってみる……痴漢を、ということですか」
B「いやいや、そうではなくて」
A「はあ」
B「空中で、こう、『こうじゃ!』」
A「…………」
B「やってみて下さい」
A「私が、ですか」
B「はい」
A「……こうじゃ」
B「もっと力を込めて」
A「こうじゃ」
B「もっと」
A「こうじゃ!」
B「どうですか?」
A「……何となく言いたいことがわかるような気がします」
B「わかりますか?!」
A「なんとなく」
B「こうじゃ!」
A「こうじゃ!」
B「こうじゃ!!」
A「こうじゃ!!」
B「そうそう!こうじゃ!」
A「調子に乗るな」
B「すみません」