その魔法、ニセモノにつき

小学生の頃に見たテレビアニメで、あのTVゲーム「ドラゴンクエスト」を模したアニメがやっていた。僕はそれが大好きで夢中で見ていた。


まだ青年期の勇者たちが、ある町を訪れた回の話だ。

どうやらその町には、勇者たちが訪れる前からすでに勇者たちがいるという噂があった。結論から言うと、その前からいた勇者たちはニセモノ。真の勇者でもないのに、勇者たちのフリをして、街人に崇められる生活を送っていたわけだ。でも、そんな生活も一転して、困った事態になった。ホンモノの勇者たちが現れてしまったのだ。当然と言えば当然。ニセモノたちは嘘がバレる前に逃げ出そうとする。また別の街でホンモノのフリをすれば、そこにはおいしい生活が待っているから。しかし、その街にモンスターが現れてしまう。街人たちは、ニセモノの勇者たちに頼ろうとする。けど、ニセモノたちはニセモノであるが故に戦いたくない。というか戦えない。弱いから。で、逃げるんだ。でも、その逃げようとした瞬間、目の前で街人がモンスターに襲われそうになる。
その時にね、ニセモノのおいぼれジジイの魔法使いが「メラ」って言うのよ。そのモンスターに向かって、魔法を唱える。めちゃくちゃ弱い魔法なんだよ、メラっていうのは。でも、モンスターもひるんで、街人はその間になんとか逃げることができた。
で、そのメラを出す瞬間をホンモノの魔法使い(青年)に見られていたわけだ。
そん時にこう言うわけだよ。


「これしか使えない。君は俺みたいになっちゃいけないよ。」


ジジイはそれだけ言って、体を引きずりながら街から逃げて行く。


これを見ていた少年時代の僕は、このジジイの得体の知れないカッコ良さにしびれた。
本当にしびれた。だから、この年になってもまだ鮮明に憶えている。
今思えば「ジジイの生き様」に惚れたんだなと思う。


メラ。


カッコ良すぎるわい。あんなタイミングで使いやがって。
ニセモノが一矢報いようとする姿。ニセモノが活躍する物語。
ずっとそんなものが好きなまま今に至る。
道理でこんな生活をしているわけだ。
ホンモノになりたい。<文・フルタジュン>


★次回のキーワードは「明日」です。