寸劇

ここはとある研究所。
部屋の中央には仰々しい装置が設置されている。
それを挟むように、白衣を着た男が2人立っている。

「博士!ついに完成しましたね!」
「うむ、ついに完成したな、助手よ!」
「長年の夢が、とうとう現実の物になりましたね!」
「うむ、まさにその通りだ、助手よ!」
「この『物体透明化装置』を使えば、透明の物体がいくらでも作ることが出来ますね、博士!」
「うむ、私が何も言わなくていいくらいに完璧な説明だ、助手よ!」


博士と助手、目を合わせてにんまりと笑う。


「さて、助手よ」
「言わなくてもわかっております!」
「え」
動物実験には成功しました。ですが、人体実験はまだ試してもいません」
「うむ」
「つまり、これを誰に使ってみるか、ということですね」
「そうだ。だが──」
「でも、どこの馬の骨ともわからない輩にこの装置を使ってしまうと、そいつがどんな犯罪を犯してしまうかわからない、という問題が」
「うむ、そうだ」
「ここは迷いどころですね」
「うむ。ここは──」
「ここはどう考えても、博士か私がある意味栄えある実験台としてその身を捧げるべきだと思います」
「うむ、そろそろ私も喋っていいだろうか」
「はい、どうぞ」
「うむ。えー……うん、特に言うことがないな」
「はい。では博士。どちらが実験台になりましょう?」


博士と助手、目を合わせる。真剣な表情。


「ここはやはりわた──」
「僕が実験台になります」
「ちょ」
「どうでしょう?」
「うむ、今更だが、ルールを決めようか」
「は、何でしょうか」
「発言するときは、挙手してからにしよう」
「そのココロは?」
「いちいちセリフを遮られるのはどうもやりづらい」


挙手する助手。


「はい、なんだね?」
「よくわかりました」


博士、明らかにめんどくさそうな表情をする。


「まあ、助手よ、君の気持ちはよくわかった。じゃあ……頼んだ」
「はい」



助手、装置の真ん中へ。博士がスイッチを入れると、助手の姿が見えなくなっていく。


「おお!成功だ!助手の姿が見えないぞ!どんな気分だ?」


返答はない。


「? 助手?いないのか?」


返答はない。


「まさか……姿だけでなく、存在すらも消えてしまったのか?!なんたることだ……」


ここで博士、ふと思いつく。


「……待てよ?」


「はい、助手」
「はい、僕はここにいます」
「……もしかして君は今、挙手をしていたのかね?」
「はい」
「アホか」