クリスマスCAKE

クリスマスイブ。下北沢の事務所にいる。仕事だ。
事務所の隣の部屋にはミュージシャンが住んでいる。
面識はないがおそらく全く売れていないミュージシャンだ。
今日も昼の3時ぐらいから単独ライブが始まって、もう4時間近くずっと弾き語っている。メロディは全く良くないし、歌い方も呪詛みたいで、クリスマスっぽさはまるでない。でも、僕は怒鳴りこんだりせずにずっと聴きながら仕事をしている。もう慣れてしまったのかもしれない。


さて、僕の実家はケーキ屋を営んでいる。
親父が脱サラして始めたのだ。
僕も弟も跡を継ぐことはなく東京に出て来てしまった。
親父から「跡を継いでくれ」という事を一度も言われたことがないし、僕も跡を継ぎたいと思ったことが一度もない。
はっきり言って、ケーキへの興味は食うことだけだ。プリンは大好物だ。
こんな事実、他人の目にはどう映るんだろうか?
僕は薄情な人間だろうか。


そんな家業に生まれたせいか、クリスマスは両親が家にいなかった。
言わずもがな、クリスマス時期のケーキ屋は忙しい。
年で一番の繁忙期。クソ忙しい。FUCK忙しいのである。
僕や弟がまだ戦力にカウントされていなかった小学生時代は、家で弟と過ごした記憶だけが残っている。いわゆる家族でテーブルを囲んで、チキンを食ったりした記憶は何にもない。おじいちゃんやおばあちゃんはすぐに寝てしまったし。


やがて、中学生ぐらいになると、僕や弟が戦力としてカウントされ始めた。
もちろん「モーニング娘。」に「後藤真希」が加入した時程の戦力はない。
僕らにできることは限られていた。
パティシエたちがクリームでコーティングした生ケーキが右から左へ、ドンドン出来てくる。僕と弟はそのケーキの上にデコレーションを載っけていく。メレンゲで出来たサンタの顔、チョコで出来た小さな家、柊、イチゴ、メレンゲで出来たキノコ…etc。
それはバカにも出来る超簡単な仕事であったが、クリスマスケーキの最後の部分を担わされていたので、自然と「これは、僕が作ったケーキ」みたいな達成感が残った。もちろん、間違った達成感だ。だって載せただけだから。でも、この勘違いの達成感は、教育上、僕の人生を何かしら決定付けた気もする。大人になった今、何でも僕は最後のゴールを自分で決めたがる欲がある。


今年、実家のクリスマスケーキは売れたんだろうか。
もう10年以上、手伝っていない。
色んなことが変わったんだろうな。


いつかケーキ屋の物語が書いてみたい。が、まだなんか書けない。





<文・フルタジュン>


★次回は最終回。キーワードは「演劇」。