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大学を卒業してフリーター生活が5年目に突入した。
そんな僕がタナカさんを知ったのは駅前のスーパーだった。
タナカさんはそこでレジを打っていた。
そのレジ打ちスピードが尋常ではなく、高速道路で言えばETCのようであった。
あの朝もそうだった。僕はタナカETCに並び、朝ごはん代わりのおはぎを買い、近くの福矢書店で時間をつぶした。結局、立ち読みしながら食べたおはぎ(立ちおはぎ)だけでは物足りず、駅の反対側にあるマクドナルドへ行くことにした。俗に言う朝マックである。
若者で賑わう店内をすり抜け注文カウンターに辿り着いた時、目の前のレジには、あのタナカさんがいた。それは間違いなく、あのタナカさんだった。別段、僕に気付いている風はない。
スーパーだけでなく、掛け持ちでマックでも働いているとは知らなかった。
甘ったるいホットケーキを食べながら、タナカさんを思った。
タナカさんはいったい何歳だろうか。30代か、40代か。
確かめたくてレジを見る。
しかし、そこにタナカさんの姿はなかった。
満腹の僕はマックを出た。
こんな日はゲームだ。一日中、家でゲームをするに限る。
駅まで戻り、構内にあるモスバーガーの前を通過した。
「・・・ん?」
いったん通過した僕は再びモスバーガーまで戻った。
ガラス越しに見えるのは…タナカさんではないか。
あのタナカさんが接客していた。
目を凝らす。
ネームプレートは「タナカ」だ。
…そうか、双子か。
タナカさんは双子なのかもしれない。
僕は走ってマックまで戻り「タナカという店員さんはいらっしゃいますか?」と聞いた。「さきほど帰られましたよ」と店長。
やはりタナカさんだった。
目と鼻の先にある大手バーガーショップを掛け持ちしているのか。
ノーボーダー。節操がないにも程がある。
僕は叱り飛ばしたいような気持ちでモスバーガーに戻った。
しかし、もうそこにタナカさんの姿はない。
今度はどこだ、どこにいるんだよ!
半ばムキになり駅前の店舗を1軒ずつ見ていく。
すると、中華料理屋の前で禿げた中年男性が話しかけてきた。
「この時間帯、タナカはミスタードーナッツの方で働いていらっしゃる」
「…えっ。あなたは誰ですか」
「彼のファンですよ。タナカは我々アルバイターの鏡だ。これが私の掴んでいるタナカの勤務シフトです」
差し出された一枚の表には、タナカさんのアルバイトシフトが入り組むように書かれてあった。今日は早朝に牛乳配達をこなし、この後は「TSUTAYA」「魚民」の順でバイトが入っていた。
「奇跡のシフトと呼ばれてるんです。タナカの年収はサラリーマンを裕に超える。」
うん、僕は就職しようと思った。<文・フルタジュン>
★来週のキーワードは「バス停」となります