孤独

薄暗い部屋の片隅においてある、ポプラの木。
それが私である。


たいした手入れもされず、適当と言えば適当な具合に水やら日光やらを与えられ、
生かさず、殺さず、と言った具合に扱われていた。

この部屋の家主は、幾度か代わっている。
若い男、若い女。その両方。中年男性。中年女性。
誰もがここを離れるとき、私を置き去りにした。

4月。
新しくここに越してきたのは、新生活を始める、女子大生である。
部屋は美しく装丁された。
ピンクを基調とした内装に、ぬいぐるみ。

私は初めて、手厚く扱われた。
一日一度の水やり。日光がよく当たる場所に置かれ、名前まで付けられた。

彼女は毎朝、私に向かってしゃべりかける。
私はそれに言葉で返すことは出来ない。
だが、彼女の愛情を全身に受けた私は、
見違えるほどに美しく、鮮やかにその身を変えた。
葉の色は緑を取り戻し、
幹もたくましく、真っ直ぐ、強く伸びた。

9月。
ある日、彼女は泣いていた。
電話を片手に、激しく泣いていた。
何か哀しいことか、やるせないことか、それとも、
許せないことでもあったのだろうか。

その日から1週間ほどの間、彼女は部屋に戻ってくることは無かった。
一体何があったのだろう。
私には知るよしもない。
カーテンを閉じられ、日光を浴びることはかなわず、
もちろん誰もいないのだから、水も与えられない。
私は衰弱していった。
それでも私は、彼女が戻ってきたときに、美しい姿を見せようと、
懸命に自分の姿を保った。

次の日の朝、部屋のドアが開いた。
そこから入ってきたのは、数名の男性であった。
彼らは部屋の中で、何かを探している様子であった。
しばらくして、部屋の荷物が次々と、段ボールの中へ詰められていった。
私も、段ボールと一緒に持ち出された。


車に数十分揺られて、着いた先の建物に、彼女はいた。
これは、引っ越しだったのであろうか。
私は、置き去りにされなかったことに安堵したのだ。


私を見た彼女の顔には、表情は無かった。