2009-01-01から1年間の記事一覧

都会のアマゾン

観葉植物屋が好きである。 下北沢に劇団事務所を構える際も、下北沢の駅から歩いて来る道の途中に素敵な観葉植物屋があったことも部屋を決めた要因になった。 僕は毎日この観葉植物屋の前を通ることになるだろう。 それはさぞ気持ちが良いことだろう。 そん…

孤独

薄暗い部屋の片隅においてある、ポプラの木。 それが私である。 たいした手入れもされず、適当と言えば適当な具合に水やら日光やらを与えられ、 生かさず、殺さず、と言った具合に扱われていた。この部屋の家主は、幾度か代わっている。 若い男、若い女。そ…

妥協カップルランド

こんな調査がある。 彼氏が彼女に点数を付けるとしたら何点か。 平均点は77点。 女性諸君はこれをどう見るかだ。 微妙なところだ。 ほぼ8割と言えば8割だから。 もちろん、逆パターンの調査結果も出ている。 彼女が彼氏に点数を付けたら何点なのか。 そ…

それを意地と呼ぶのかもしれない

妥協とは、何とも耳障りの悪い言葉だ。どうにも怠惰な響きが含まれるというか、理想を追い求められなかった、もしくは追い切れなかったというか。そんなイメージを受ける。 個人的には、「妥協」と「譲歩」はほぼ同じ意味合いの言葉だと捉えている。 ただ、…

ローソン鯨中店

アルバイト雑誌の片隅にその小さなアルバイト募集の情報を見つけた時は、何かの冗談であると思った。学生歓迎★週2日〜♪ 七里ガ浜 徒歩5分! 未経験者大歓迎!週2日〜OK!! ローソン「鯨中店」でスタッフ募集♪ 君も鯨の中で働いちゃおう! 学生・フリー…

散文の夜

黒々とした水面。緩やかに波打つそこからは、時折魚が跳ねている。ここから2,3キロも下れば、海へと流れている。 私と友人のIは、どぶ川の縁に腰掛けて喋っている。 とりとめのない会話といえばそうなのだが、当時の私とIにとっては、なかなかに深刻な…

漫画 『星守る犬』

さっき、下北沢の定食屋で鳥の竜田揚げどんぶりを食らいながら漫画を1冊読んだ。 漫画『星守る犬』。帯には重松清さんの推薦文がある。 その推薦文はこうだ。 「読み終えた瞬間、『おとうさん』という声が、 遠くからかすかに聞こえた。 涙が出た。 せつな…

序章 

会議室の中に、2人の男がいる。 面接の風景である。 面接官は3〜40代で、気弱そうな見た目をしている。 一方、面接を受けに来た男は、目をギラギラと輝かせている。 「ではまず、あなたのお名前をお聞かせ下さい」 「はい!山田太郎と申します!」 「では山…

もしくはデビルガール

帰省の楽しみと言えばいくつかあるが、その一つに「プロ野球中継」があることを忘れてはならない。視聴率の低迷から、テレビがプロ野球中継に見切りを付けてから数年が経つ。東京に暮していると、BS放送やCS放送でもない限り、ジャイアンツ戦ぐらいしか…

それは夏の思い出

私は、野球にあまり興味がない。 だから、知り合いが野球の話題で盛り上がったりしていても、うまく会話に参加できないのである。 野球にあまり興味がないから、好きなチームやら選手やらも特にない。 そりゃあイチローやら松坂やらといった大選手は尊敬した…

飛び散った牛乳パック

笑うことが嫌いな人なんているんでしょうか? 「決して笑うもんか!」と頑なに決めて生活している人っていますか? もしもいたとしたら、その人はどこかの宗教団体に入っている人です。 できれば毎日笑って過ごしたいと思うのが人間の常。 キャッキャキャッ…

邂逅

甲子園に「甲子園の魔物」が現れてから4ヶ月経った。決勝で大暴れした魔物は、いつの間にか姿を消した。 ワイドショーなんかで大騒ぎしたり、様々な国から学者がやってきたりして あれこれ調査したらしい。 が、魔物は決勝の日以来姿を現さなかった。きっと…

古田家之墓

もうすぐお盆だ。 けど、今年は色々とあって帰れそうにない。やはり、気になるのはお墓。 長良川鉄道の線路沿いにある「古田家之墓」のこと。僕は中学生時代からお墓によく参るようになった。 神社で小銭をチャリンチャリンと入れて、手をパンパンと叩くノリ…

 帰郷

田舎に、十数年ぶりに帰ることにした。 今まで帰らなかったのは、戻ったら最後、もう東京には戻れなくなると思ったから。 …というわけではなく、単純にお金が無かったのと、めんどくさかったからだ。 友達の訃報を聞かなければ、この先も戻ってくることは無…

世界中の美女とSEXするよりも、あの娘と同じバイトのシフトで働きたい。

誰かさんの言葉である。 それを発したのは、偉い人でも何でもない。 きっとフツーな男の言葉に過ぎない。 しかし、悔しいかな、この端的なフレーズは見事に男の真理を表している。 たかがバイトのシフト、されどバイトのシフトである。 「シフト表を眺めてガ…

ヒマ

「人生なんて、ただの暇つぶしだよな」 「なんだ、いきなり」 「そう思わない?」 「そうかなぁ」 「そうなんだよ」 「どうした。何かあったのか?」 「何もなくてさ」 「は?」 「暇すぎるんだ」 「へぇ」 「何か暇をつぶすものがないとやってられなくて」 …

ビールのバッコスたち

「ビールの季節がやってきた」と巷で言われている。 しゃらくせぇ。 僕はまだビアホールという場所に行ったことがない。 行きたいけど行けない。 ちゃんと会社勤めをしている人間じゃないと行ってはいけないと思っている節があるのだ。 数年前、僕の眼前に「…

ゆうわく

毎日、ウォーキングをすることにした。ダイエットのためである。 30を過ぎてやれ飲み会だ、やれ深酒だなどと、身を省みない生活をしたおかげで、2年前に買ったスーツが着られなくなってしまったのだ。私はお気に入りのスポーツウェアに身を包み、家を出た。…

ゲームセットが聞こえない

人間は2種類しかいない。 「甲子園に行こうとした人間」と「甲子園に行こうとしなかった人間」。 その2種類である。 行けたか、行けなかったかじゃない。 行こうとしたか、行こうとしなかったか。 僕はその2種類だと思っている。 高校時代に野球部を選択…

潜むモノ

私は、いや、日本中のそれを見た人はきっと、今日のことを忘れないだろう。 「甲子園には魔物が住む」。夏の全国高等学校野球選手権大会。いわゆる、甲子園。 この大会では、長年にわたりドラマチックな展開や信じられないような活躍が起こる。 それを形容し…

あるカセットテープ

事務所の押し入れから、あるカセットテープを取り出してラジカセで聴いてしまった。 6月ぐらいから俄かにラジオの仕事が増え始め、ひと時の休みを求めたのかどうかは分からない。 クーラーの付いた事務所。7月の夕暮れ。冷蔵庫から麦茶を出してコップに注…

ブラックコーヒー

熱いブラックコーヒーと、お気に入りの煙草。 この二つを口にする瞬間が、私にとってのオアシスだ。こんなキャッチコピーを頭に浮かべ、私は人知れずほくそ笑む。ここは、オフィスから歩いて1分もしない場所にあるカフェ。 1杯200円の、いささか粗末な味のブ…

昔球場

タイヘン好きなドラゴンズ。 春、ペナントレースが始まれば、毎日yahooのスポーツニュースをチェックする生活が始まる。 ドラキチ(通称、ドラゴンズキチガイ)たちは、その勝敗に一喜一憂している。 実生活で一喜一憂できるのはそれぐらいなのでどうか大目…

この道の桜を見るのは、今年で19回目だった。 初めて見たときの記憶は曖昧だ。おそらく、小学生にもなっていない時分だったろう。 その時はこの街自体がニュータウンとして開発されたばかりだったから、桜の樹自体も植えられて間もないものだった。桜並木と…

ライバルへ

君とはもうずいぶん連絡を取っていない。 どうしてるんだろう。 岐阜にいるんだろうか。 元気だろうか。 保育園から一緒だった僕らは違う高校に進学した。 そして、2人とも浪人生になった。 君と頻繁に会っていたのは、今思えばその時期が最後だった。 19…

つらつらと、1

ライバル、と言う単語を見たとき、真っ先に浮かんだのはポケットモンスターに出てくるあいつだった。何故だろう。他にもたくさんいると思うのだが、何故かあいつが登場した。 あいつを軽く説明するならば、主人公のライバルだ。 当然か。 主人公の友達であり…

ベートーベンの弁当ブログ

1801年6月25日(金) 皆さん、ごきげんいかがでしょうか。 ルートビヒ=バン=ベートーベンです。 今日のお弁当は「バイエルンソーセージのホットドッグ」でした。 モーツァルトさんの薦めで、この「ベートーベンの弁当ブログ」を初めてちょうど2週間が経っ…

レッスン

そこにはピアノがあり、少し離れたところに椅子が置いてある。ピアノには女が、離れた椅子には男が座っている。 女 じゃあ、よろしくお願いします男 ああ、よろしく 女はベートーベンの『月光』を弾き始める。 男 ちょっとストップ 女、手を止める。男、女に…

取り立てて恋愛経験のない私は来月で46歳の誕生日を迎える。 (24歳の時、大学院の同級生に一度だけ告白されたことがあった。付き合うことはなかったが、一応、それも付き合ったこととしてカウントしてある。) もう薄々は気付いている。 このまま独り身…

ワールド エンド にて

「お客さん、終点ですよ」 「はっ?!」 くそ、やってしまった。疲れていたとはいえ、寝過ごしてしまうなんて。 もう既に終電は出てしまったらしい。財布の中身を見る。所持金は八百二十四円。これではタクシーも使えない。 「…くそ」 そう毒づくと、俺は改…